事務から現場へ動くと何が変わるか|日額という単位と、採る側が選んでいる4つ

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事務の有効求人倍率は0.36倍、建設・採掘は4.99倍。それでも事務職として働く人は10年で186万人増え、減ったのは建設・採掘のほうでした(前編:事務の求人は0.36倍なのに、事務職は10年で186万人増えた)。国の推計では、2040年に事務職が437万人余り、現場人材が260万人足りません。

では、事務にいた人が実際に現場へ動くと何が起きるのか。すでに動かした会社があります。ただ、現場の値段は月ではなく日で数えられているため、月給で働いてきた人には前提の違いが残ります。

筆者は外国人材の採用に、企業側と候補者側の両方から関わっています。事務が減った会社が次に何へ決裁を出すのかを、手前の席で見る仕事です。ここでは、席が減ったあとに採る側が何を選んでいるかを公的統計で追いかけます。

事務にいた人を、実際に現場へ動かした会社がある

推計の話が現実の人事になった例が、2026年4月に出ました。RIZAPグループが建設業へ本格参入し、グループ内の人材を建設職人へ転換すると発表したものです。

同社のリリース(2026年4月14日)にはこう書かれています。DXと育成ノウハウをもとにグループ全社でAI活用を進め、すでに業務効率の20%以上の向上を実現した。そのうえで「AI活用により捻出された最大500人の人的リソースへリスキリング機会を提供(技能・資格取得の全面支援)、RIZAP建設へリソースシフトを計画」する、と。待遇については「事務職を上回る年収増を目指す」としています。

AIで空いた時間を、そのまま人員削減にせずに新規事業へ振り向ける。順番として、事務の省力化が先で、現場への異動が後です。

現場を取材した報道によれば、4月から第1弾の50人が研修を開始し、移行期間中の給与水準は維持したうえで1年後に技能の状況をみて引き上げを検討する。出向を打診された社員からは「なぜ自分なのか」という声も出たそうです(日本経済新聞 2026年8月13日)。

ただし、これを標準と考えると読み違えます。同じ記事が引いたリクルートワークス研究所の全国就業実態パネル調査では、2025年に事務系の仕事から現場職へ移った人は全就業者の1.0%にとどまり、逆向きの移動とほぼ同水準だとされています。職種をまたぐ移動は、統計に出るほどには起きていません。

現場の単価は14年上がり続けているが、単位は日額

受け入れる側の条件も動いています。国土交通省が毎年決めている公共工事設計労務単価は、令和8年3月から適用される分で全国全職種の加重平均が25,834円になりました。前年度比4.5%の引き上げで、14年連続の上昇です(2026年2月17日発表)。

国交省の資料は、この単価を「労働者本人が受け取るべき賃金を基に、日額換算値(所定内労働時間8時間)として」設定したものだと説明しています。つまり現場の値段は、月ではなく日で数える世界の数字です。

月給で働いてきた人にとって、この違いは小さくありません。台風で工事が止まった日、猛暑で作業を中止した日を、誰がどう負担するのか。単価が14年上がり続けているという事実と、働いた日数がそのまま収入になるという事実は、両立します。

その猛暑も数字になっています。厚生労働省の集計で、2025年に職場の熱中症で死亡または4日以上休業した人は1,803人。統計を取り始めた2005年以降で最多で、前年より約43%増えました。業種別では製造業365人、建設業292人の順。死亡者19人にかぎると、建設業の5人が最も多くなっています。

建設・採掘の4.99倍という求人倍率は、席がたくさん空いているという意味であると同時に、埋まらないままだという意味でもあります。

現場なら安全、とも言い切れない

「AIに強いのは身体を使う仕事」という整理は、途中まで正しくて、その先で崩れます。先ほどの経済産業省の資料は、生成AIやロボットの進展が想定より速かった場合の試算も並べています。

  • 事務従事者の労働需要|生成AI等の導入がない場合1,530万人、推計の本体で1,040万人、生成AI等の進展を仮定すると680万人。
  • 運搬従事者の労働需要|同じ順に240万人、200万人、130万人。
  • 保健医療サービス職業従事者等|同じ順に62万人、61万人、52万人。

資料は職種を3つに分け、現場型については「操作、制御」「保守、点検」といった定型スキルで代替が大幅に進むとしています。一方、対人業務型は「職そのものの代替は起こりにくい」。同じ現場でも、機械を操作する仕事と、人に向き合う仕事では見通しが違うわけです。

逆の動きも出ています。米ボックスはAIを理由とする人員削減とは距離を置き、年間数百人規模の採用を続けながら在籍社員の再教育に回す方針を示しました(日本経済新聞 2026年7月3日)。AIを入れたら人を減らす、という一本道ではありません。

事務が減ったあと、採る側が選んでいる4つ

ここまでの数字を、採用する側の机の上に置き直します。定型業務が減って手が空いた。同時に現場は埋まらない。このとき企業が実際に検討するのは、次の4つです。

  • 社内で動かす|空いた人を別の事業へ配置し直すやり方で、採用費も入社後のリスクもかからないぶん、いちばん安く済みます。
  • 募集を止める|出しても応募が来ない求人なら、募集をやめて業務そのものを減らすほうが確実です。
  • 現場の条件を上げる|賃金や勤務形態を動かす手ですが、いちど上げた条件は翌年の出発点になるので決裁は重くなります。
  • 採る相手を変える|日本人だけでは埋まらない現場に、外国人材を入れる選択です。

並べてみると、いちばん上が最も安い。RIZAPの計画がまさにこれで、採用市場に出ないまま現場の頭数を増やす設計です。会社から見れば、AIで浮いた人件費と、現場の求人広告費の両方が同時に片づきます。

それでも社内異動が万能でないことは、先ほどの1.0%という数字が示すとおりです。事務職の人が明日から鉄骨を持てるわけではないし、本人が望むともかぎらない。研修に1年かけられる体力のある会社は多くありません。

そこで2番目と4番目が現実的な選択肢として残ります。採用が失敗したときのコストは採る側にとってかなり重く、その重さは面接で確かめる中身にも表れます(転職の面接で見られている3つ)。無理に採って半年で辞められるくらいなら、募集を止めるか、確実に来てくれる相手を探すほうが安い。

現場を埋める外国人材にも、枠と値段がある

4番目の選択肢が、どこで使われているのか。厚生労働省の外国人雇用状況の届出状況(令和7年10月末時点)から、産業別の内訳を抜き出します。

  • 製造業|635,075人(全体の24.7%)
  • サービス業(他に分類されないもの)|391,946人(15.2%)
  • 卸売業・小売業|340,687人(13.3%)
  • 宿泊業・飲食サービス業|319,999人(12.4%)
  • 建設業|206,468人(8.0%)
  • 医療・福祉|146,105人(5.7%)

上位に並んでいるのは、日本人の求人倍率が高い産業とほぼ同じ顔ぶれです。前年からの伸び率が最も大きかったのは医療・福祉の25.6%増でした。介護サービスの求人倍率が3.82倍のまま埋まらない一方で、この分野の外国人労働者はいちばん速く増えています。

在留資格別でみると、技能実習が499,394人、技術・人文知識・国際業務が468,068人、特定技能が286,225人。特定技能は前年から38.3%増で、主な在留資格のなかでは最も速く伸びています。

ただし、この枠には天井があります。特定技能1号は分野ごとに受入れ見込数が閣議決定されていて、出入国在留管理庁がその充足率を公表しています。

分野受入れ見込数在留者数充足率
外食業50,000人49,060人98.1%
飲食料品製造業133,500人100,769人75.5%
建設76,000人52,132人68.6%
介護126,900人79,884人63.0%
農業73,300人44,050人60.1%
全分野の合計805,700人425,961人52.9%
出入国在留管理庁「特定技能1号の受入れ見込数及び在留者数について(令和8年6月末時点・速報値)」より抜粋、受入れ見込数は令和8年1月23日の閣議決定で令和11年3月までの数字

外食業は98.1%で、新規の受け入れはすでに止まっています(人手不足なのに賃金が上がらない理由)。建設は68.6%で残りが2万3千人あまり、介護は63.0%で残りが4万7千人あまり。同じ資料の年間増加数は建設が8,533人、介護が24,968人なので、このペースが続けば数年で天井に触れます。

値段も上がります。在留資格の手数料は2026年10月から引き上げられ、更新・変更は在留期間に応じて最大75,000円になります(在留手数料が最大20倍に)。どの在留資格で採るかによって、要件も在留期間も転職の可否も変わります(特定技能と技人国、どちらで採用すべきか)。

安い労働力を無制限に足せる仕組みではありません。人数の枠があり、手数料があり、受け入れ体制の整備もいる。4つの選択肢のなかでは、いちばん準備の要る手です。

よくある質問

現場の仕事に移れば安泰ですか

経済産業省の資料は、現場型の職種について「操作、制御」「保守、点検」といった定型スキルで代替が大幅に進むとしています。運搬従事者の労働需要は、生成AI等の進展を仮定した場合に130万人まで下がる試算です。一方で対人業務型は職そのものの代替が起こりにくいとされています。現場かどうかより、定型か、人に向き合うかのほうが分かれ目に近いと言えます。

未経験から現場職に移れますか

企業が制度として動かす場合は、育成の時間を会社が負担します。RIZAPグループの例では、移行期間中の給与水準を維持したうえで研修を行い、1年後に技能の状況をみて引き上げを検討するという設計でした。個人で移る場合は、この育成期間の生活費を自分で持つことになります。求人倍率が高い職種ほど採用のハードルは下がりますが、単価が日額で決まる現場では、資格や技能が積み上がるまでの収入をどう見るかが先に来ます。

外国人材が増えると、現場の仕事は取られますか

外国人材は、人数の枠と費用の制約を受ける選択肢です。特定技能1号の受入れ見込数に対する充足率は、令和8年6月末時点で外食業98.1%、建設68.6%、介護63.0%。外食業はすでに新規の受け入れが止まっています。加えて、労働力調査では建設・採掘従事者が10年で26万人減りました。日本人と外国人材が同じ席を取り合っているというより、どちらでも埋まらない席が増えているというのが、採用の現場から見える形です。

空いた席の行き先を決めているのは、採る側

AIが事務を減らす、という話は、たいてい働く人の側から語られます。何が奪われるか、どのスキルを足すか。ただ、席がどこへ動くかを実際に決めているのは、決裁を出す側です。

事務にいた人を現場へ動かした会社があり、そこでは移行期間の給与を会社が持ちました。一方で、職種をまたぐ移動は全就業者の1.0%にとどまります。社内で動かすか、募集を止めるか、条件を上げるか、採る相手を変えるか。どれが選ばれるかは、その会社にどの選択肢が残っているかで決まります。

現場の単価は14年上がり続けていますが、単位は日額です。外国人材にも人数の枠と手数料があります。どちらも、無条件に開いている受け皿ではありません。

事務の席が減ること自体より、減ったあとに会社が何を選ぶか。これから出てくる求人票の中身を決めているのは、そちらのほうです。

出典

  • 経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」(2026年3月、産業構造審議会経済産業政策新機軸部会 参考資料)
  • 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(2026年2月17日発表)
  • 厚生労働省「2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」
  • 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況(令和7年10月末時点)」
  • 出入国在留管理庁「特定技能1号の受入れ見込数及び在留者数について(令和8年6月末時点・速報値)」

※本稿は2026年9月10日時点の公開情報にもとづきます。RIZAPグループ株式会社の発表(2026年4月14日)、日本経済新聞(2026年8月13日・2026年7月3日)、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」参考統計表、総務省統計局「労働力調査(基本集計)」長期時系列表6 も本文中で参照しています。

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