転職理由は「他律」と「自律」で組み立てる|ポジティブな言い換えだけでは足りない理由

採用側から見た転職
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転職理由の答え方を調べると、たいてい同じ助言に行き着きます。ネガティブな理由をポジティブに言い換える。残業が多いなら「法令を守った働き方を実現したい」、人間関係が合わないなら「協業しやすい環境で成果を出したい」。型そのものは間違っていません。

ただ、その言い換えを受け取る側は、それが言い換えであることを分かったうえで聞いています。筆者は外国人材の採用に、企業側と候補者側の両方から関わっています。企業が誰を通して誰を落とすのかという話を、日常的に聞く立場にいます。言い回しの巧拙で結果がひっくり返った、という話はほとんど出てきません。

分かれ目は組み立てのほうにあります。転職理由が「他律」と「自律」の両方を含んでいるか。片方だけで終わっている答えは、深掘りの一問で崩れます。

転職理由は「他律」と「自律」を並べて作る

転職エージェントが配っている選考準備シートの類を読むと、設問の中身は違っても、答えの整理の仕方はほぼ共通しています。2つの軸で書け、という指示です。

  • 他律|誰に対して、どんな価値を与えたいのか
  • 自律|自分がどう成長して、どんな力を身につけたいのか

転職理由も、志望動機も、将来やりたいことも、この2つに分解できる状態が目標になります。面接で見られている一貫性・再現性・志望度の3つのうち、転職理由が受け持つのは主に一貫性の部分です。

やることは単純で、答えを2つに割るだけ。ただ、この2つは同時に出てきません。片方は自然に口をついて出て、もう片方は考えないと出てこない。出てこなかったほうが、その人の答えの弱い側です。

他律だけで語ると、受け身に聞こえます

「困っている人の役に立てる仕事がしたい」「顧客ともっと長く関わりたい」。他律だけで組まれた転職理由は、内容としては前向きです。志望動機とも繋げやすい。

それでも採る側から見ると、情報が半分足りません。価値を届ける相手は決まっているのに、そこで本人がどう変わるつもりなのかが書かれていないからです。読み取れるのは「与えられた場所で、与えられた役割をこなす人」という像で、環境が用意されるのを待っている印象になりやすい。

これが軽く扱われないのは、中途採用の多くが欠員補充だからです。現場は人が足りないまま回していて、教える側にも余力がありません。指示があれば動ける人と、指示がなくても動ける人とでは、受け入れ部署の負担がまったく違う。だから自律の話が抜けていると、面接官は「入社後の立ち上がりに人手が要るかもしれない」という読み方をします。

自律だけで語ると、会社が手段に見えます

逆側の偏りも、同じくらいよく見かけます。「マネジメントを経験したい」「専門性を身につけたい」「裁量の大きい環境で成長したい」。どれも真っ当な動機です。

ただ、これだけを並べると、会社が目的ではなく手段の位置に置かれます。この人の目的は成長で、うちの会社はそれを得るための場所の1つ。そう読めてしまうと、次に浮かぶのは「もっと成長できる場所が見つかったら移るのでは」という疑問です。

面接官が志望度を確かめるのは、熱意を測りたいからではなく、内定辞退と早期離職のリスクを見積もるためです。自律だけの転職理由は、そのリスク評価を上げる方向に働きやすい、というのが筆者の見聞きしている範囲での実感です。

他律と自律のどちらかに寄っていること自体は、珍しくもなんともありません。人の動機はもともと偏っています。問題は、偏ったまま口に出すと、片側だけが人格として受け取られてしまうこと。両方を並べれば、その誤読は起きません。

実際に辞めた理由の上位は、面接では言いにくいものです

そもそも、なぜ言い換えという作業が必要になるのか。公的な統計を見ると理由がはっきりします。

厚生労働省の「令和7年雇用動向調査結果の概要」によると、2025年の1年間に転職した人が前職を辞めた理由のうち、内容が特定できる項目で割合が高いのは次の3つでした(「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」「定年・契約期間の満了」は、面接で言い換えを迫られる種類の理由ではないため除いています)。

前職を辞めた理由男性女性
労働時間、休日等の労働条件が悪かった8.5%12.9%
職場の人間関係が好ましくなかった8.9%11.5%
給料等収入が少なかった9.9%8.6%
厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」より(2025年1年間の転職入職者)

労働条件、人間関係、収入。面接で正面から言いにくいものばかりです。しかも特殊な事情ではなく、内容がはっきりしている理由のなかでは、この3つが最も多い部類にあたります。

採る側もそれは分かっています。目の前の応募者の転職理由が、この3つのどれかを出発点にしていることは珍しくありません。だから面接官は、きれいに整えられた転職理由を聞いた時点で、その下に何があるのかを想定しながら聞いています。

言い換えたネガティブは、深掘りで戻ってきます

ここに、求職者向けの記事ではあまり書かれない事情があります。面接官は、落とす判断を自分ひとりで完結できません。

一次面接の担当者は二次に上げるかどうかを、現場は人事に、人事は決裁者に、それぞれ説明する必要があります。「なんとなく合わない気がした」では通らない。だから面接官は、通す側にも落とす側にも使える材料を、面接の1時間で集めようとします。

その材料になりやすいのが、答えの中の説明がつかない箇所です。深掘りの質問は意地悪ではなく、材料集めの作業だと考えたほうが実態に近いでしょう。

たとえば「新しい環境で成長したい」という転職理由には、ほぼ確実にこの質問が続きます。その希望は現職では叶えられないのですか。異動は検討しましたか。 言い換えの下にある事実に一切触れずにこの一問をかわそうとすると、答えは抽象的になり、隠したという印象だけが残ります。

事実を伏せる必要はありません。順番を変えるだけで通り方が変わります。

  1. 現状から離れたい理由を、感情ではなく状況として述べる
  2. その状況に対して自分で取り組んだことを述べる
  3. それでも足りなかったものを述べる
  4. だからどんな環境が必要なのかを述べる(ここが自律)
  5. その環境で誰にどんな価値を出したいのかを述べる(ここが他律)

会社への評価としてではなく、自分の意思決定の説明として話す。この順で組むと、ネガティブな事実が入っていても不満の表明にはなりません。2で自分の打ち手を挟むことで、環境のせいにしていないことが同時に伝わります。

掘られること自体は悪い兆候ではありません。判断材料を集める価値がないと思われた応募者は、そもそも掘られないまま面接が終わります。

一貫性は、未来から遡って並べると見えてきます

他律と自律が揃ったら、次はそれを過去と繋ぎます。順番は未来からのほうが分かりやすい。

時点問い
未来今回、何を求めて転職するのか
現在何を求めて現職に入ったのか
過去その前は、何を求めて選んだのか

3つの段それぞれに、他律と自律を1つずつ書き出します。9つではなく6つの短文です。並べてみて、求めてきたものに共通の芯があれば、それが一貫性になります。

芯が見つからないこともあります。そのときに無理やり1本の物語へ縫い合わせると、たいてい深掘りで綻びます。求めるものが変わったのなら、変わったという事実と、変わるきっかけになった出来事を話したほうが早い。面接官が確かめているのは筋書きの美しさではなく、入社後にミスマッチが起きないかという一点です。

外国人材の採用でも、採る側は同じ一貫性を見ています

この2軸は、日本人の中途採用に限った話ではありません。筆者が仕事で関わる外国人材の選考でも、企業が確かめようとしていることは同じです。

なぜ日本で働きたいのか。なぜこの仕事なのか。母国に戻ってから何をしたいのか。質問の形は違っても、聞かれているのは他律と自律です。誰の役に立ちたいのか、何を身につけたいのか。そのどちらかしか語れない人は、日本人と同じところでつまずきます。

むしろ企業側の慎重さは強く出ます。育成就労では日本語能力が要件に入り、受け皿も監理団体から監理支援機関へ変わります。受け入れる側の手間と費用が増えれば、失敗したときの損失も増える。損失が大きい採用ほど、志望理由の一貫性は細かく確かめられます。

採る側の不安の構造は、国籍では変わりません。

よくある質問

転職理由と志望動機で、同じことを言ってもよいのでしょうか

繋がっているのが自然な状態なので、重なること自体は問題ありません。転職理由は「なぜ今の場所を出るのか」、志望動機は「なぜこの会社なのか」で、同じ軸の前半と後半にあたります。むしろ両者が無関係に聞こえるほうが不自然で、そこを掘られます。

他律と自律は、どちらを先に話すとよいですか

決まりはありませんが、転職理由なら自律を先に置くと繋がりやすいでしょう。現状で足りないものの話から入り、だからこの環境が必要で、そこで誰にどんな価値を出したいのか、と続ける形です。志望動機のときは逆にして、相手への価値から入ったほうが自分本位に聞こえません。

給与を上げたい、を転職理由にしてよいのでしょうか

触れて構いません。ただ、収入だけを理由に据えると、より高い提示があれば動く人だと読まれます。何をした結果として今の評価に納得がいかないのか、次の環境でどんな成果を出して評価を得たいのか。そこまで含めれば、報酬の話は自律の一部として扱えます。

転職理由が1つに絞れないときはどうすればよいですか

無理に1つへ絞らず、2つに整理して話すほうが伝わります。転職の動機が単一である人のほうが少ない。他律で1つ、自律で1つという分け方をすると、数を減らしながら偏りも消せます。3つ以上になるときは、どれかが手段の話になっていないか見直してみてください。

言い換えを磨く前に、揃っているかを見る

ポジティブな言い換えは必要な作業です。ただ、それは答えの表面を整える工程であって、答えそのものを作る工程ではありません。表面だけを磨いた転職理由は、深掘りの一問で下地が見えます。

次に転職理由を書き出すときは、一文ずつ「これは他律か、自律か」とラベルを付けてみてください。片方のラベルしか付かなければ、そこが足りていない側です。足すべき言葉は、たいていその一文の隣に空いています。

出典

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