育成就労計画の認定申請は、2026年9月1日から受付が始まっています(申請開始の経緯についてはこちら)。ここでは、そもそも技能実習から育成就労になって、受け入れる企業にとって何が変わるのかを整理します。
変更点は多岐にわたりますが、実務への影響が大きいのは次の4点だと考えています。
育成就労制度は2027年4月1日に施行されます。転籍や日本語要件など、ここで挙げる変更が実際に適用されるのはその日からです。
制度の目的が「国際貢献」から「人材の確保と育成」に変わります
技能実習は、建前としては「開発途上地域への技能移転による国際貢献」が目的の制度でした。人手不足の解消を目的にしてはいけない、という建前です。
育成就労では、この建前がなくなります。人材の確保と育成が、制度上の目的として明記されました。
実務としてはこれまでと変わらないように見えるかもしれませんが、建前と実態のズレが解消されたことで、後述する転籍や日本語要件といった具体的な仕組みが正当化された、という関係にあります。
本人の意向による転籍が認められます(ただし条件は細かい)
技能実習では、原則として実習先を変えることができませんでした。育成就労では、本人の意向による転籍が認められます。
「育てた人材が抜けてしまうのでは」と心配される方が多い部分ですが、実際の条件を見ると、自由に転職できる制度ではありません。
運用要領で定められている主な条件は次のとおりです。
転籍を希望する本人の側の条件
- 転籍制限期間を経過していること(この期間は分野ごとに1年から2年の範囲で定められています。詳しくは後述します)
- 技能試験と日本語能力試験に合格していること(合格が必要な試験は分野別運用方針で定められています)
- 育成就労の期間を3年を超えて延長している場合は、本人意向の転籍は認められません
- 一度転籍した後に再び転籍する場合は、転籍先で改めて転籍制限期間を経過する必要があります
受け入れる側(転籍先)の条件
- 本人意向の転籍者が、在籍する育成就労外国人全体の3分の1を超えないこと
- 大都市圏の企業が地方圏から受け入れる場合は、全体の6分の1以内(在籍者が5人以下の場合は1人まで)
- 現に受け入れている育成就労外国人が、転籍者だけでないこと
- 「優良な育成就労実施者」の基準に適合していること
- 民間の職業紹介事業者を関与させていないこと(監理支援機関・機構・ハローワーク等を通す必要があります)
- 転籍元が支出した初期費用の一部を補填すること
最後の「初期費用の補填」は、実務上とくに重要です。転籍先の企業は、転籍元が負担した受け入れ費用の一部を支払う義務を負います。補填額は、転籍までの期間に応じて按分される仕組みです。
つまり、「1年経ったから自由に移れる」という制度ではありません。試験に合格し、受け入れ先が条件を満たし、費用の精算まで行って、はじめて成立します。
一方で、企業側から見れば注意すべき点もあります。転籍を妨害する行為、たとえば試験を受けさせない、受験を妨害するといった行為は、育成就労計画の認定取消しの事由になり得ます。この場合、後述の「やむを得ない事情」による転籍が認められることもあります。
なお、上記とは別に、やむを得ない事情による転籍という枠組みもあります。賃金の不払い、二重契約、労働関係法令の違反、ハラスメントなどが該当し、こちらは転籍制限期間の経過を待たずに認められます。
転籍制限期間は「2年にすると待遇向上が義務になる」
転籍制限期間について、企業側が実際に判断を迫られる論点がひとつあります。
この期間は分野別運用方針で1年から2年の範囲で定められますが、2年と定められた分野であっても、受け入れ企業が自らの判断で1年に設定することができます。
普通に考えれば、企業としては長いほうがありがたいはずです。育成にかけた時間と費用を回収する期間が延びるわけですから。
ただし、2年を選ぶと条件が付きます。
1年を超える転籍制限期間を設定する場合、1年を経過した後に、昇給その他の待遇向上を図ることが義務になります。具体的な内容は分野別運用方針で定められており、たとえば製造業の分野では、分野別協議会が毎年公表する昇給率(当該分野の全企業の定期昇給分とベースアップ分を基準としたもの)以上の割合で、1年目から2年目にかけて所定内給与を昇給させることが求められます。
逆に、自主的に1年と設定した場合は、この待遇向上の義務はかかりません。
つまり企業の判断はこうなります。
- 2年にする:転籍されにくくなるが、2年目の昇給が義務になる
- 1年にする:昇給義務はないが、1年経てば転籍され得る
どちらが有利かは、賃金水準や育成にかけるコスト、その分野の相場によって変わります。なお、設定した転籍制限期間は労働条件として本人に明示する必要があり、1年を超える場合は待遇向上策についても併せて明示することが求められます。
日本語能力が要件に入ります
技能実習には、日本語能力の要件が実質的にありませんでした。育成就労では、就労開始前にA1相当の日本語能力を身に付けていることが前提とされています。
ここでいうA1相当とは、日本語教育の参照枠におけるA1のことです。分野によってはこれより高い水準を求める場合があるため、分野別運用方針の確認は必要ですが、基本の枠組みは制度共通で定められています。
実務上とくに影響が大きいのが、入国後講習の時間数です。A1相当の試験に合格しているかどうかで、必要な時間が100時間変わります。
- A1相当の試験に合格していない場合:入国後講習は320時間以上(うち、A1相当を目標とする講習を100時間以上)
- 合格している場合:220時間以上(A1相当講習は不要)
なお、入国前に講習を受けている場合は、その分が差し引かれます。入国前講習を160時間以上受けていれば入国後は160時間以上、110時間以上受けていれば入国後は110時間以上、という具合です。
講習の担い手にも定めがあります。A1相当講習は文部科学大臣の認定を受けた認定日本語教育機関の「就労のための課程」が基本ですが、当分の間の経過措置として、登録日本語教員の資格を持つ者による講習でも認められます(講習の目標がA1相当であること、100時間以上であることなどが条件です)。
つまり、誰がどこで日本語を教えるのかを、受け入れの設計に最初から組み込む必要があるということです。入国前に済ませるのか入国後に行うのか、担い手をどこに頼むのか。ここを後回しにすると、受け入れ全体のスケジュールが後ろにずれます。
受け皿が「監理団体」から「監理支援機関」に変わります
これまでの監理団体は、育成就労では監理支援機関という位置づけになります。名称が変わっただけではなく、許可を取り直す必要があります。
許可の申請は2026年4月15日から始まっています。ここで企業側から見て重要なのは、いま付き合いのある監理団体が、そのまま監理支援機関に移行するとは限らないという点です。
受け皿となる監理支援機関が許可を得ていなければ、育成就労計画の認定も進みません。企業側で直接コントロールできない部分ですので、早めに確認しておきたいところです。
分野ごとに条件が違います
ここまで「分野によって異なります」と繰り返してきましたが、これは制度の設計上そうなっているためです。
転籍制限期間(1年か2年か)、必要な技能試験、日本語能力の水準は、分野別運用方針で個別に定められています。すでに公表されている分野もあれば、これから公表される分野もあります。
つまり、自社が該当する分野の運用方針を確認しないと、実際の条件は分からないということになります。
全体像を把握するには
制度の全体像は、出入国在留管理庁と厚生労働省が編集した「育成就労制度 運用要領」にまとまっています。ただし、この文書は532ページあります(令和8年8月改訂版)。しかも4月版からの改訂であり、今後も更新が続く見込みです。
本業を抱えながら、この分量を読み込み、改訂のたびに追いつき続けるのは現実的ではないと思います。
自社に関係する部分だけでも把握しておきたい、というのが実際のところではないでしょうか。その場合、分野別運用方針から先に確認するのが近道です。転籍制限期間も、必要な試験も、そこに書かれています。
制度の見立てについて
記事の内容についてのご質問や、「自社の場合はどうなるのか」といったご相談は、お問い合わせからお送りください。一般的な範囲でお答えできることをお伝えします。ご返信は1〜2営業日を目安としています。
出典
- 出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度 運用要領 〜関係者の皆さまへ〜」(令和8年8月)
- 出入国在留管理庁「育成就労制度」
※本稿は2026年9月時点の公開情報にもとづきます。

