AIスキルで賃金が上がるのは、社内ではなく転職の場面|求人票に「AI」と書いてあるのは400件に1件

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AIを使える人の年収は何割高い、という数字がいくつも出回っています。一方、内閣府が求人情報の個票データを調べたところ、仕事内容に「AI」という単語が入っている求人は、2025年3月時点で全体の0.25%でした。求人およそ400件に1件です。

出回っている上乗せは、どこで誰に払われているのか。AIを入れた会社では、その効果が何の数字になっているのか。同じことができる人の間で、上がる人と上がらない人は何で分かれるのか。この3つは、賃金が実際に書き換わる場面を1か所に絞ると答えが出ます。

数字は2026年9月25日時点で公表されている公的統計によります。平均そのものが動かない理由は「人手不足なのに賃金が上がらない理由」にまとめてあります。この記事が追いかけるのは、その平均の裏で分布が横に広がる動きです。

求人票に「AI」と書いてあるのは、400件に1件

内閣府の令和8年度年次経済財政報告(2026年7月24日公表)は、ハローワークと民間の求人広告の個票データから、仕事内容のテキストに特定の単語が入っている求人の割合を出しています。2025年3月時点で「AI」を含む求人は全体の0.25%。報告の書き方をそのまま借りると、求人約400件のうち1件です。

媒体で分けると差がはっきりします。民間の求人広告では0.4%、ハローワークでは0.05%。同じ調べ方で「IT」を含む求人は0.2%、「データ」を含む求人は7.7%でした(いずれも2025年)。どれも2020年以降に増えるペースが上がっていますが、水準そのものは低いままです。

求人票に「AI」と書くには、その仕事でAIに何をさせるのかが社内で決まっている必要があります。0.25%という数字は、そこまで決まった募集がどれだけあるかを示していると読めます。AIスキルの相場として語られる額は、求人票の中に見えているわけではありません。

平均は上がっているが、伸び方は産業ごとに12.7ポイント開いている

賃金の平均は動いています。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査(2026年3月24日公表、2025年6月分の所定内給与)では、一般労働者の賃金は月額340,600円で、前年比3.1%増でした。

この3.1%は、産業をまたいで平均した値です。産業別に対前年増減率を並べると、学術研究、専門・技術サービス業が9.6%増で最も高く、不動産業、物品賃貸業は3.1%減。上と下で12.7ポイント開いています。

水準にも幅があります。最も高い電気・ガス・熱供給・水道業が444.0千円、最も低い宿泊業、飲食サービス業が277.2千円。AIの話でよく名前の出る情報通信業は406.0千円で、前年比3.8%増でした。全体の3.1%を0.7ポイント上回っているだけです。

平均が上がっているかどうかと、個人の間で差が開いているかどうかは別の問いです。平均だけを見ていると、この12.7ポイントの幅は1本の数字に畳まれて消えます。

AIを入れた事業所が挙げた効果に、賃金の項目はない

会社の側でAIがどこまで入っているかは、2026年から公的統計に載るようになりました。厚生労働省の労働経済動向調査(2026年3月30日公表)が新規の調査項目として取り上げ、2026年2月1日現在でAIを導入している事業所は31%、導入していない事業所は67%でした。導入していない67%の内訳は、導入の予定があるが9%、予定はないが58%でした(いずれも全事業所を100とした割合)。

規模による差が大きく出ています。

  • 1,000人以上|48%
  • 300〜999人|27%
  • 100〜299人|22%
  • 30〜99人|16%

産業別では金融業、保険業が64%、情報通信業が58%、学術研究、専門・技術サービス業が56%。低いほうは運輸業、郵便業と医療、福祉がともに17%でした。AIが入っている職場と入っていない職場は、きれいに分かれています。

導入した事業所のうち78%が、活用後に効果があったと答えました。効果の中身は複数回答でこうなっています。

  • 作業負担の軽減や作業効率の改善|91%
  • 品質の向上|33%
  • 労働時間の短縮や休暇・休日の増加|25%

活用の狙いと並べると落差が見えます。狙いがあると答えた事業所のうち「労働時間の短縮や休暇・休日の増加」を挙げたのは46%。効果があったと答えた事業所のうち、これを挙げたのは25%です。分母が違うので直接は引けませんが、導入した事業所全体に直すとおよそ43%と20%。狙ったうちの半分ほどにしか届いていません。

そして、効果の選択肢に賃金や処遇に関する項目はありません。品質、人手不足の解消、経費の削減、業績の改善、技能継承の円滑化まで並ぶ中に、給与は入っていない。AIの効果は、会社の作業量として測られています。使えるようになった人の賃金は、この調査が見ている対象ではありません。

AIに代替される職の賃金が下がる、という筋書きは統計に出ていない

AIが事務を減らすなら、事務職の賃金は下がるはずだ、という筋書きがあります。年次経済財政報告は内閣府自身の企業調査から、定型的な書類作成については、将来の代替を考えている企業まで含めて7割程度がAIを用いることを検討している、としています。

ところが賃金は逆に動いていました。同じ報告が職種間で賃金を比べたところ、2022年から2025年にかけての賃金上昇率は「事務従事者」が最も高く、水準でも管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者に次ぐ位置にあります。AIによる代替が進んでいることで賃金が押し下げられている傾向は、現時点ではみられない、というのが報告の書きぶりです。

報告は理由として2つの経路を挙げ、結論を保留しています。ひとつは、AIが単純作業に近い部分だけを代替するなら、残った業務で生産性が上がって賃金も上がるという経路。もうひとつは、賃金の高い業務ほど代替の費用対効果が高いので、いま賃金が高い層のほうが先に代替され、将来は相対的に下がっていくという経路です。どちらが正しいかは現時点では明らかではない、と書かれています。

事務の求人と人数がどう動いたかは「AIが減らしているのは何か」にあります。

賃金が書き換わった記録は、転職のところに残っている

厚生労働省の雇用動向調査は、転職して入職した人の賃金を前職と比べています。令和7(2025)年の結果(2026年8月31日公表)では、増加が40.8%、変わらないが25.5%、減少が31.0%でした。

幅まで見ると、1割以上増えた人が28.2%、1割以上減った人が21.9%。増加が減少を上回った差は9.8ポイントです。就業形態をそろえて一般労働者どうし、しかも雇用期間の定めのない移動にかぎると、この差は15.5ポイントまで広がります。

転職すれば上がる、という話ではありません。31.0%は下がっています。前年と比べても、1割以上増えた人の割合は1.2ポイント低下し、減少した人の割合は全体で1.6ポイント上昇しました。上振れの幅が広がっているわけでもない。

それでも、上がった人は上がっています。同じ年、同じ「転職」という行為の中で、1割以上増えた28.2%と、1割以上減った21.9%が並んでいる。平均をとれば9.8ポイントという1本の差に畳まれて、両側の山は見えなくなります。

同じ転職でも、年齢で向きが逆になる

年齢階級で分けると、符号が入れ替わります。

年齢階級増加うち1割以上減少うち1割以上増加-減少
20〜24歳55.2%44.2%17.5%10.2%+37.7
30〜34歳48.6%32.8%29.0%19.0%+19.6
40〜44歳44.9%29.9%27.4%17.6%+17.5
50〜54歳29.4%18.4%42.0%28.3%-12.6
60〜64歳21.1%11.0%54.3%47.6%-33.2
計40.8%28.2%31.0%21.9%+9.8
雇用動向調査(令和7年)の転職入職者の賃金変動状況より、単位はポイント(増加-減少)と%

20代前半は増加が減少を37.7ポイント上回り、1割以上増えた人が44.2%います。50代前半で符号が反転し、60代前半では減少が54.3%、うち1割以上減った人が47.6%になります。

60代前半は事情が別にあります。同じ調査で男性のこの年齢層が前職を辞めた理由をみると「定年・契約期間の満了」が57.8%。定年後の再就職がこの数字に入っているため、下がったのは転職に失敗したからではありません。

それを差し引いても、50代前半で符号が変わることは残ります。AIスキルで賃金が上がるという話が当てはまる範囲は、この表の上のほうに寄っています。

採る側が払っているのは、埋まらない求人を埋めるための上乗せ

筆者は外国人材の採用に、企業側と候補者側の両方から関わっています。採る側の席から見ると、外から採るときに出す額と、いま社内にいる人の昇給は、別の稟議です。前者は埋まらない求人を埋めるための費用で、後者は翌年以降の出発点を上げる決定になります。通る速さも、通す相手も違います。

その費用がどれだけ効くのかは、報告が推計しています。民間の求人広告のデータで、求人が掲載されてから消えるまでの期間は平均19週、中央値17週。3分の1程度の求人は、採用が決まるまでに半年以上かかっていました。2年以上残っている求人も数%あります。

職種や業種をそろえたうえで募集条件の効き方をみると、募集賃金が10%高い求人では、充足する確率が1.5%程度上がっていました。効き方は職種で違い、営業・事務職に比べてIT職、サービス・販売職、現業職のほうが賃金への感応度が高い。福利厚生では、育児休業や資格取得といった単語が入っている求人で充足確率が上がることも示されています。募集条件の書き方で応募してくる層が変わる話は「求人票の書き方で、応募してくる層が変わる」にあります。

ITエンジニアやIT系専門職は、求人が充足しにくい職種でした。しかも有効求人倍率でみると、販売やサービスと比べて特に高いわけではない。報告は、技術面で応募者の能力を見極める必要が相対的に高いため、倍率がそれほど高くなくても充足に時間がかかっている可能性を挙げています。

上乗せは、この時間を短くするために払われています。社内でAIを使いこなしている人の評価とは、はじめから別の勘定です。

AIスキルの値段は、動いた人の記録にしか出てこない

AIスキルで年収が何割上がる、という数字は、たいてい転職して上がった人の集合から出てきます。上がらなかった人と、そもそも動かなかった人は、その集合に入りません。

公的統計を並べると位置関係が見えます。求人票に「AI」と書いてある求人は400件に1件(2025年3月時点)。AIを導入した事業所は31%で、効果として挙がったのは作業効率の改善が91%、賃金の項目はそもそも選択肢にない。賃金が書き換わった記録が残るのは転職の場面で、そこでは増加40.8%と減少31.0%が並び、20代前半と60代前半では向きが逆になる。

平均の3.1%からは、誰の賃金が動いたのかが出てきません。動いているのは分布の幅のほうです。AIを使えること自体が賃金に効くのではなく、AIに何をさせるかまで書けた募集が出て、そこに移った人の記録として残る。いま社内にいる人の昇給として設計された仕組みは、統計のどこにも見当たりません。

労働政策研究・研修機構の調査(2025年5月発行、2024年5月から6月に雇用者2.2万人を対象)では、自分でAIを利用している人は8.4%、生成AIは6.4%、AIを利用するための学びをした人は6.9%でした。いまはまだ少数で、少数のうちは希少性に値段が付きます。導入が31%まで来た先で上乗せの理由になるのは、使えることではなく、AIに何を任せられるかを言える人かどうかです。求人票に書ける会社が400件に1件しかないのは、その切り分けが採る側でも終わっていないためで、先に終わらせた会社から順に、募集賃金という形で額が表に出てきます。

よくある質問

AIスキルを身につければ年収は上がりますか

上がる場面は限られています。内閣府の令和8年度年次経済財政報告によると、仕事内容に「AI」という単語が入っている求人は2025年3月時点で全体の0.25%、約400件に1件でした。民間の求人広告では0.4%、ハローワークでは0.05%です。スキルに額が付いているのは、その仕事でAIに何をさせるかまで決まった募集にかぎられます。

社内でAIを使いこなしていれば、給与は上がりますか

厚生労働省の労働経済動向調査(2026年2月1日現在)では、AIを導入した事業所の78%が効果があったと答え、その内容は「作業負担の軽減や作業効率の改善」が91%で最多でした。この調査が用意している効果の選択肢に、賃金や処遇の項目は含まれていません。効果は会社の作業量として測られており、使えるようになった人の給与を見た統計ではない、という状態です。

転職すれば賃金は上がりますか

上下に割れています。厚生労働省の雇用動向調査(令和7年)では、転職して入職した人のうち前職より賃金が増加したのが40.8%、変わらないが25.5%、減少が31.0%でした。1割以上増えた人が28.2%いる一方、1割以上減った人も21.9%います。前年と比べると1割以上増えた人の割合は1.2ポイント低下しており、上振れの幅が広がっているわけでもありません。

年齢によって結果は変わりますか

同じ雇用動向調査を年齢階級で分けると、20〜24歳は増加が55.2%で減少を37.7ポイント上回りますが、50〜54歳では減少42.0%が増加29.4%を上回り、60〜64歳では減少が54.3%になります。ただし60代前半は、男性の離職理由で「定年・契約期間の満了」が57.8%を占めており、定年後の再就職が含まれる数字です。

事務職はAIで賃金が下がっていくのですか

いまのところ逆の動きが出ています。内閣府の令和8年度年次経済財政報告が職種間で賃金を比べたところ、2022年から2025年にかけての賃金上昇率は「事務従事者」が最も高く、水準でも管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者に次ぐ位置でした。報告は、AIが単純作業だけを代替して生産性が上がる経路と、賃金の高い業務ほど代替が進む経路の両方を挙げ、どちらが正しいかは現時点では明らかではないとしています。

出典

  • 厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況」(2026年8月31日公表)
  • 厚生労働省「労働経済動向調査(令和8(2026)年2月)の概況」(2026年3月30日公表)
  • 内閣府「令和8年度 年次経済財政報告」(2026年7月24日公表)

※本稿は2026年9月25日時点の公開情報にもとづきます。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(2026年3月24日公表)と、労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.256 AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」(2025年5月発行)も本文中で参照しています。

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