転職エージェントを使う人が払うお金は、原則としてゼロです。それでも厚生労働省の集計では、民間の職業紹介事業者が令和6年度に受け取った手数料は約9,835億円にのぼりました。
このお金を払っているのは誰で、1人の転職でいくら動くのか。担当者から返事を急かされたり、似たような求人ばかり勧められたりするのは、仕組みのどこから来ているのか。そして転職する側は、どこで何を確かめれば、言われるままに動かずに済むのか。この3つを順に見ます。
材料は厚生労働省の集計と、職業安定法とその下の省令・指針です。個々の会社の内情ではなく、どの事業者にも当てはまる仕組みの話です。
求職者から手数料を取ることは、法律で禁じられている
求職者と企業の両方から申込みを受けて間をつなぐ転職エージェントは、法律上は職業紹介事業にあたります。手数料を取って行うには厚生労働大臣の許可が要ります。許可を受けた事業者の呼び名は、有料職業紹介事業者。
その有料職業紹介事業者について、職業安定法32条の3第2項は「求職者からは手数料を徴収してはならない」と定めています。
例外は、省令が決めた狭い範囲だけです。芸能家とモデルの職業、それに経営管理者・科学技術者・熟練技能者の職業に紹介した場合で、後の3つは紹介で就いた仕事の年収が700万円を超えるときに限られます。経営管理者は、厚生労働省の業務運営要領の説明では、一般的に部長以上の職にある人のことです。この場合も取れる額には上限があり、就職後6か月以内に支払われた賃金の11%(免税事業者は10.3%)以下とされています(職業安定法施行規則20条2項)。
ほとんどの転職では、求職者が払う手数料はありません。払っているのは、人を採用した企業です。
逆向きのお金にも線が引かれています。求職の申込みを集めるために、お祝い金その他これに類する名目で、社会通念上相当と認められる程度を超えて金銭などを渡すことは、2021年4月1日から国の指針で禁じられました。厚生労働省は、求職者を集めるなら金銭ではなく、職業紹介の質を上げてそれを訴えることで行うよう求めています。
ここでよくある誤解が、無料で使えるのだから自分がエージェントのお客さんだ、という受け止め方です。正しくは、手数料を払う企業もエージェントのお客さんです。職業紹介は、求人と求職の両方の申込みを受けて雇用関係が成り立つようにあっせんすることと定義されていて(同法4条)、お客さんは両側にいます。請求書が向かうのは企業の側です。
1件あたり約103万円、全体では約9,835億円
有料職業紹介事業者は、毎年の運営状況を事業報告書にまとめて厚生労働大臣に出すことになっていて、同省がそれを集計して公表しています。最新の令和6年度分(速報)が次の表です。
| 項目 | 令和6年度 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 常用就職件数 | 約92万件 | 4.8%増 |
| 手数料収入 | 約9,835億円 | 17.6%増 |
| うち常用就職に係る手数料 | 約9,136億円 | 16.8%増 |
| 常用就職1件あたりの手数料 | 約103万円 | 10.9%増 |
表の「常用」は、4か月以上の期間を定めて雇われるか、期間の定めなく雇われることを指します。正社員だけでなく、4か月以上の有期契約も入ります。1件あたりの手数料は、常用就職に係る手数料の総額と常用就職件数から算出した平均です。
この平均では、職種の違いがならされています。報告書は家政婦(夫)、配ぜん人、医師、保育士、情報処理・通信技術者といった職業ごとに集計しており、103万円はそれらを合わせた数字です。自分の転職で企業が払う額が103万円になる、という意味ではありません。
事業者の数も多く、令和6年度に事業報告を出した有料職業紹介事業所は30,561ありました。そのうち、1年間に就職の実績があったのは13,946事業所で、半分に届きません(同報告書)。同じ「エージェント」でも、規模も実績もばらばらです。
伸びも大きく、手数料の合計は令和2年度の約5,240億円から、4年で2倍近くになりました(同報告書の年度別推移)。1件あたり約103万円という数字は、日本にいる外国人の転職を扱った記事でも取り上げています(日本にいる外国人を採るという市場)。
手数料の決め方は2つ、実際にはほぼ全部が届出制
法律が認める手数料の決め方は、大きく2つあります(職業安定法32条の3第1項)。
1つは上限制手数料です。省令が上限を決めていて、就職後に支払われた賃金の11%(免税事業者は10.3%)まで。同じ会社に6か月を超えて勤めても、もとになる賃金は6か月分までです(期間の定めのない雇用では、賞与などを除いた6か月分の賃金の14.8%のほうが大きければ、そちらが上限)。
もう1つは届出制手数料です。事業者が手数料の種類や額を定めた手数料表を厚生労働大臣に届け出て、その表に基づいて取ります。額を決めるのは事業者の手数料表です。そのかわり、特定の人を不当に差別的に扱う手数料や、中身が明確でないために著しく不当な手数料には、大臣が手数料表の変更を命じられます(同条4項)。
実際に使われているのは、ほとんどが届出制です。令和6年度の手数料約9,835億円のうち、届出制手数料が約9,808億円、上限制手数料は約18億円でした(同報告書の手数料徴収状況)。割合にすると99.7%が届出制です。
では届出制の手数料表は、どんな形をしているのか。厚生労働省は業務運営要領に手数料表の様式例を載せています。登録した求職者を紹介する一般登録型の例では、紹介サービスの手数料は成功報酬です。額は就職後1年間に支払われる賃金(内定書や労働条件通知書に書かれた額)に対する割合か定額で、負担者は求人者とされています。特定の条件の人を探し出すサーチ型の例では、成功報酬に加えて着手金や活動1日あたりの手数料も並びます。
年収に対する割合で決まる成功報酬が、国の様式例が描く基本形です。率そのものは事業者ごとの手数料表で決まり、厚生労働省の求職者向けリーフレットの言葉では、企業が払う手数料は手数料表に記載の範囲内で個別の契約ごとに決まります。
急かされるのは、売上が立つのが入社のときだから
成功報酬の手数料表で動くエージェントにとって、売上が立つのは紹介した人の入社が決まったときです。面接が何回進んでも、内定が出ても、承諾されずに終われば手数料は入りません。それまでの面談や日程調整にかけた時間は、回収されないまま残ります。
返事を早くほしいという力は、ここから生まれます。承諾までの日数が延びれば、他社の選考が進んで辞退される可能性も、担当者の手間も増えるからです。担当者が急かすのは性格の問題というより、手数料の仕組みに組み込まれた力だと見たほうが実際に近いでしょう。
ただし仕組みは、入社させれば終わり、にもなっていません。早く辞める人を紹介したときに効く歯止めが、制度に3つあります。
- 返戻金制度|紹介した人が早く辞めたときに、企業から受け取った手数料の全部か一部を返す制度で、国の指針は有料職業紹介事業者が設けることが望ましいとしている
- 早期離職の公開|紹介で期間の定めのない雇用に就いた人のうち、6か月以内に辞めた人の数(解雇による離職を除く)を、事業者ごとにインターネットで公開する義務がある
- 転職勧奨の禁止|紹介で期間の定めのない雇用に就いた人に、就職した日から2年間は転職を勧めてはいけない
すぐ辞める人を入れれば、返戻金制度のある事業者は手数料を返すことになります。6か月以内の離職の数字も、誰でも見られる形で残ります。エージェントは、早く決めてほしい力と、長く働いてもらわないと困る力の両方を受けているわけです。
勧められる求人が偏るのは、手数料が求人ごとに違うから
エージェントが紹介できるのは、そのエージェントに求人を申し込んだ企業の仕事だけです。職業紹介は求人と求職の両方の申込みを受けて間をつなぐ仕事なので、申込みのない会社の求人は、そもそも手元にありません。勧められる求人は転職市場の全部ではなく、そのエージェントに手数料を払って採ると決めた企業の一覧です。
その一覧の中でも、手数料は求人ごとに違います。手数料表の範囲内で契約ごとに決まり、年収に対する割合で決めるなら、年収の高い仕事ほど額も大きくなる。同じ人が同じ時期に転職しても、どの会社に決まるかでエージェントの売上は変わります。
だから勧められる求人には、あなたに合っているかとは別の物差しが混ざりえます。手数料の大きさと、決まりやすさです。その物差しが表に出てこないことが、なぜこればかり、という違和感の出どころです。
企業の側も、エージェントに求人を出すかどうか、どんな条件で出すかを選んでいます。求人票の書き方で応募してくる層が変わるのと同じで(求人票の書き方で、応募してくる層が変わる)、どこに求人を出すかで、届く候補者の顔ぶれも変わるでしょう。
採る側から見ると、紹介の候補者には手数料が乗っている
筆者は外国人材の採用に、企業側と候補者側の両方から関わっています。採る側に立てば、エージェントから届いた書類は、決まれば手数料を払う前提で読むものです。直接応募してきた人と同じ中身の書類でも、その費用を払ってまで採る理由があるか、という問いが1つ増えます。
その問いに答えるのは、書類と面接の中身です。前職で何をどう動かしたかが具体的に書かれていれば、入社後にも同じことができそうだと読めます(STAR話法は、なぜ採る側に刺さるのか)。面接では、一貫性・再現性・志望度の3つが確かめられます(転職の面接で見られている3つ)。
一方で、利害がそろう場面もあります。紹介経由で内定を出して辞退された場合、成功報酬なら企業は手数料を払いませんが、選考に使った時間は戻りません。エージェントの側も売上を失います。承諾してくれる人かどうかを早く見極めたいのは、企業もエージェントも同じです。
年収の交渉にも、この構造が効いています。手数料が年収に対する割合で決まる契約なら、年収が上がれば企業が払う手数料も上がります。エージェントにとって年収を上げる交渉は、本人のためであり、自分の売上のためでもある。企業は、上がった年収と上がった手数料の両方を払います。
早く辞められたときの扱いも、採る側の関心事です。返戻金制度で手数料の一部が戻っても、採用にかけた時間は戻りません。採る側が転職理由を丁寧に聞くのは、またすぐ動く人ではないかを確かめたいからです(転職理由は「他律」と「自律」で組み立てる)。
外国籍の人がエージェントを使うときも、ルールは同じ
ここまでの決まりは、日本で働く外国籍の人がエージェントを使う場合も変わりません。職業安定法3条は、何人も国籍などを理由に、職業紹介について差別的な取扱いを受けないと定めています。手数料についても、厚生労働省の業務運営要領は、求人者や求職者の人種・国籍などで手数料額に高低を設ける場合を、手数料表の変更命令を判断する場面の1つに挙げています。
外国籍の人に加わるのは、在留資格の確認です。転職先の仕事がいまの在留資格の範囲に入るかどうかで、必要な手続きが変わります。エージェントに急かされていても、ここは飛ばせません(転職するとき、在留資格はどうなるのか)。
エージェントを使う側に回るための3つの確かめ方
人材サービス総合サイトで、手数料と早期離職を見る
厚生労働省の人材サービス総合サイトでは、許可を受けた職業紹介事業所を誰でも検索できます。都道府県を選び、事業主の名称の一部か、許可番号(01-ユ-000001のような形)で引けます。同省の求職者向けリーフレットが、このサイトで確認できる事業者情報として挙げているのは次の4つです。
- 紹介により就職した人の数
- そのうち6か月以内に離職した人の数
- 手数料に関する事項(手数料率の実績、手数料表)
- 返戻金制度の有無や内容
就職者数、6か月以内の離職者数、手数料表、返戻金制度の情報提供は、2018年1月1日施行の職業安定法改正で事業者の義務になりました(同法32条の16第3項)。2025年4月1日からは、常用就職の実績が多い上位5職種について、1件あたりの平均手数料率の実績も載せることになっています。平均手数料率は、企業から受け取った手数料の総額を、就職した人の予定年収の総額で割ったものです。
数字は、同じ年度に期間の定めのない雇用で就職した人の数と並べて読みます。省令は、6か月以内に辞めた人の数とは別に、辞めたかどうか分からなかった人の数も出すよう定めています。分からなかった人が多ければ、実際に辞めた人は表の数より多いかもしれません。
見るときの注意は2つ。リーフレットによれば、早期離職者数は職種や業界によって事情が違うため、参考情報の1つとして確認するものです。また令和6年度に就職した人の6か月以内の離職者数は、事業者が2026年10月から12月に入力することになっており、時期によってはひとつ前の年度の数字が出ていることがあります。
勧められた理由と、手数料の決まり方を聞く
国の指針は、有料職業紹介事業者が求職者に手数料のことを明示するとき、求職者から取る手数料だけでなく、企業から取る手数料に関する事項も明示しなければならないとしています。中身は事業所の手数料表で、サービスの種類、内容、手数料、負担者が書かれたものです。個々の求人でいくらになるかは契約ごとなので表からは分かりませんが、どういう決まり方なのかは求職者の側から確かめられます。
手数料表を読むときの目安は、業務運営要領が変更命令の判断の例に挙げている書き方です。「その他付加的なサービス」のような包括的な区分を設けて、どのサービスにいくらかかるのか対応がはっきりしないもの。サービスと金額が1対1で読めるかどうかが、手数料表の分かりやすさの物差しになります。
そのうえで、勧められた求人について、なぜ自分にこれなのかを聞きます。返ってくる答えが自分の経験や希望の言葉なのか、求人の側の事情(急いで採りたい、枠が空いている)だけなのか。それによって、その求人をどこまで本気で検討するかを自分で決められます。
返事の期限と退職日は、自分で確かめて決める
承諾の返事の期限を担当者から伝えられたら、それが企業の示した期限なのかを確かめ、内定の通知と突き合わせます。期限を延ばしてほしいと頼むときも、企業の期限が分かっていないと話が始まりません。
退職日も同じです。厚生労働省の求職者向けリーフレットは、いまの会社を紹介した事業者から退職の日付を指定された、という相談例に対して、無期雇用なら2週間前までに使用者に申し出れば退職できること、いずれにしても第三者からの指示に従う必要はないことを示しています。
無料の理由を知っていれば、エージェントは使う道具になる
成功報酬の手数料表で動くエージェントの売上は、入社が決まるまで立ちません。急かされることも、勧められる求人の偏りも、そこから来ています。一方で返戻金や早期離職の公開、2年間の転職勧奨の禁止があり、早く辞められて困るのはエージェントも同じです。
次の面談の前に、人材サービス総合サイトでそのエージェントを検索して、手数料表と6か月以内の離職者数を開いておいてください。仕組みを知ったうえで話を聞けば、勧められた求人を自分の物差しで選び直せます。
よくある質問
転職エージェントは本当に無料ですか
ほとんどの転職では無料です。職業安定法32条の3第2項が、有料職業紹介事業者は求職者から手数料を徴収してはならないと定めています。例外は省令で、芸能家とモデルの職業と、紹介で就いた仕事の年収が700万円を超える経営管理者・科学技術者・熟練技能者の職業に限られます。その場合も、就職後6か月以内に支払われた賃金の11%(免税事業者は10.3%)が上限です。
エージェントは企業から1人あたりいくら受け取っていますか
厚生労働省の令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)では、常用就職1件あたりの手数料は約103万円でした。これは職種をならした平均で、個々の額は事業者が届け出た手数料表の範囲内で、企業との契約ごとに決まります。事業者ごとの平均手数料率の実績は、厚生労働省の人材サービス総合サイトで確認できます。
希望と違う求人ばかり勧められるのはなぜですか
エージェントが紹介できるのは、そのエージェントに求人を申し込んだ企業の仕事だけだからです。そのうえで手数料は求人ごとの契約で決まり、成功報酬なら入社が決まるまで売上になりません。決まりやすさや手数料の大きさという、本人の希望とは別の物差しが混ざりうる仕組みです。なぜその求人なのかを担当者に聞き、答えが自分の経験や希望に結びついているかで判断してください。
入社してすぐ辞めたら、エージェントはどうなりますか
返戻金制度を設けている事業者なら、紹介した企業から受け取った手数料の全部か一部を返すことになります。国の指針は、有料職業紹介事業者が返戻金制度を設けることが望ましいとしています。また事業者は、紹介で期間の定めのない雇用に就いた人のうち6か月以内に辞めた人の数(解雇による離職を除く)を、インターネットで公開しなければなりません。
入社したあと、紹介してくれたエージェントから転職を勧められることはありますか
期間の定めのない雇用で就職した場合、その就職先を紹介した職業紹介事業者は、就職した日から2年間、転職を勧めてはいけないと国の指針で定められています。お祝い金などの名目で社会通念上相当な程度を超える金銭を出して求職の申込みを勧めることも、2021年4月1日からの禁止事項です。2025年1月1日以降の許可と更新では、この2つが許可条件としても付きます。
出典
このほか、職業安定法施行規則、厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」(第6 手数料、第15 様式例)、職業安定法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)、厚生労働省・都道府県労働局のリーフレット(2018年1月施行の法改正、2021年4月の就職お祝い金の禁止、2025年1月の許可条件の追加、2025年4月の手数料率の実績の公開)、人材サービス総合サイトの入力案内を本文中で参照しています。
※本稿は2026年10月2日時点の公表情報にもとづきます。

